
ある土曜日の夕方、長女と一緒に中学のオリエンテーションに参加していると、長男から1通のメッセージが届きました。
誰か鍵持ってる?
鍵が、ない①:長男
―― またか。
どうやら部活が終わった長男が帰宅し、家の鍵を忘れていた事に気づいたよう。
私は、家族の一日のスケジュールを思い浮かべながら、
もうすぐ次男くんが帰ってくるはずだから、マンションのロビーのところで待ってたら?
と返事をしました。
鍵が、ない②:次男
ところがしばらくすると、また長男から連絡が。
次男くんと二人で、お隣さんのお家でテレビみてます。
―― は?
なんと次男も鍵を忘れ、二人ともお隣さんにレスキューしてもらったよう……申し訳ない。
丁度オリエンテーションが終わったタイミングだったので、私はすぐにお隣さんにお礼の電話を入れました。
オリエンテーションが行われている中学から自宅までは1時間ほどかかります。しかもその日私は、オリエンテーション後に、別方向にある大学でのシンポジウムに夫と二人で参加する予定となっており、子どもたちだけで晩ごはんを食べてもらう予定としていました。
「……かくかくしかじかで……ほんとすみません。これから長女が自宅に向かいますので、よろしくお願いします。二人ともロビーで彼女を待つように伝えてください。」
長女に託す
オリエンテーションが終わり、私は長女と学校近くの駅までやってきました。
長女はこれから電車で自宅に戻り、私は反対向きの電車で、シンポジウムに参加します。
私「二人が待っているはずだから、鍵を開けてあげてね。晩ごはんは冷蔵庫に用意してあるから、温めてみんなで食べてね。」
長女「うん、わかった。」
―― 息子二人は抜けてるけど、娘は安心だわ。
私は長女にすべてを託し、反対向きの電車に乗りました。
鍵はあるけど、携帯がない
ところが、電車に乗ってしばらくすると、また長男から連絡が。
長女ちゃんに連絡がとれない。多分家に携帯忘れてると思う。
―― え?
彼女の携帯のGPSを確認すると、長男の予想どおり家に携帯を忘れているようでした。
―― 彼女に連絡はとれないか……でも、どこにいるかは、鍵のGPSで確認できるはず。
うちは、私を筆頭に色々なものをなくすので、私はありとあらゆる持ち物にGPSをつけて、なくなってもすぐ見つかるようにしています。
―― そんなに落とし物をするなんて、君って、結構うっかりさんなんだね。 と、温かい目で笑ってもらえるのは、若い女子のみ。 身嗜みや言動の一つ一つが「仕事ができる人間かどうか」という評価の対象となる人間にとっ …
私は、彼女の鍵につけているGPSを確認しました。すると……
―― あれ?
彼女の鍵のGPS信号は、予定どおり自宅近くの駅にたどり着きましたが、そこから北にある自宅へ向かわず、南へと移動しています。
GPSは夜の繁華街の方向へ
―― やばい。迷ってるわ。
南には繁華街があり、彼女はまさにそこに向かって突き進んでいます。
時刻は夕方の6時ごろ。私は、「賑わい始めた飲み屋街で、女の子がウロウロと迷っている」というシチュエーションを想像しました。
電話で知らせたくても、彼女の携帯は自宅。連絡手段はありません。
―― これは、シンポジウムに参加している場合ではないわ。
私は急いで電車を降り、夫に連絡をとりました。
「……かくかくしかじかで、長女ちゃんは今繁華街の中で道に迷っているみたいだから、そっちに向かおうと思う。GPSがヤバそうなところに向かって行ったら、近くの警察署に連絡を入れて保護してもらったほうが良いかも。」
GPSは軌道に戻った
夫に連絡をとったあとでもう一度彼女の鍵のGPSを確認すると、なんとか軌道修正し、自宅へ向かうバスに乗ったようでした。
その後長男からも連絡がきて、長女と合流し、子どもたちは無事に家に入れたとのこと。
―― なんとかなった……。
私はもう一度シンポジウム行きの電車に乗りました。
時間は当初の予定よりもだいぶ過ぎていて、最後の1講演に間に合うかどうか……といったところ。でも、その後の交流会で、ネットワーキング活動はできそうです。
―― お隣さんにはいつも申し訳ないなー。今回はお詫びに何を持っていこうか。
私は、子どもたちが鍵を忘れるたびにレスキューしてくれているお隣さんへのお詫びとお礼の言葉を考えながら、シンポジウムの会場に入りました。