train

ある日の朝、私はいつものように電車で1時間半の職場へ向かっていました。

 

その日は出張もあったため、いつもの荷物に加えて、宿泊用の大きなボストンバッグも持っていました。

電車に乗り込み、バッグを網棚に載せようとしたのですが……重くて持ち上がりません。

 

―― どうしよう。床に置くしかないかな。でも満員電車だし、迷惑になるよね……。

 

困って両手を下ろしたそのとき、隣にいた男性が声をかけてきました。

「持ち上げましょうか?」

親切な男性に助けられる

その人はスーツ姿の若い男性で、通勤途中のようでした。

「ありがとうございます。」

彼は、私の重たいボストンバッグを軽々と網棚に載せてくれました。

 

―― 朝から親切な人に出会えて、今日はいい日だな。

私は嬉しい気持ちで、網棚のバッグの下の席に座り、サングラスをかけて朝日を遮りながら、1時間の「朝寝」に入りました。

目が覚めたら、バッグがない

「次は◯◯駅、◯◯駅……」

車内アナウンスで目を覚まし、降りる準備をしようと立ち上がった私は、網棚に手を伸ばしました。

ところが……

 

「あれ!? カバンがない!」

 

そこにあるはずのボストンバッグが、跡形もなく消えていたのです。

「男の人が持って降りていきましたよ」

驚いて近くの人に尋ねました。

「あの、すみません。この網棚に大きなカバンがあったと思うのですが……」

「ああ、それなら、男の人が持ってさっきの駅で慌てて降りていきましたよ。」

「えーー!? ど、どういうこと???」

 

―― あの男性かな? カバンを載せてくれたあの人? いい人だと思ったのに、まさか盗んだってこと? 中にはiPadとか、貴重品も入ってたのに……。

もしかして、勘違い?

一瞬焦りましたが、「慌てて」という言葉が気になりました。

 

―― もしかして、私が降りたと思って、忘れ物だと勘違いして届けようとしてくれたのかも?

 

思い返せば、私は乗車時、サングラスをかけていませんでした。 男性にカバンを載せてもらった後にサングラスをかけ、そのまま下を向いて眠ってしまったのです。

もしかしたら、サングラスの有無で、私の印象が変わっていたのかもしれません。

彼は、私がカバンを載せられなかったのを見て、降りるときも手助けが必要だと考えていたのかも……そして、私の姿が見えず焦って、カバンを持って降りた……という可能性もあるかもしれません。

駅で確認すると

私は予定の駅で降りると、すぐにインフォメーションセンターへ。

「こうこうこういう事情で、これくらいの大きさのボストンバッグが届いていないでしょうか?」

駅員さんは手前の駅に確認の電話をし、こう答えました。

「確かに、それに似た落とし物が、先ほど届いたようです。」

 

―― やっぱり!

 

私はすぐに反対方面の電車に乗って、落とし物を受け取りに行きました。 中身を確認すると、iPadを含めてすべて無事でした。

これが海外だったら、戻ってこなかったかもしれません。

 

―― 本当に、親切な人だったんだな。

 

駅員さんによると、その男性は「お礼は要りません」と言って立ち去ったそうで、連絡を取ることはできませんでした。

遅刻したけど、心は温かい

電車を引き返したことで、出勤は大幅に遅れてしまいましたが、 幸いなことに朝一のミーティングなどは入っていませんでした。

私は一連の騒動とその後の手続きでちょっと疲れてしまっていましたが、心は温かいままで職場に向かいました。

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