時を遡ること一ヶ月程前。
私達夫婦は、長女の塾の最後の保護者面談に参加しました。
「……で、娘さんの場合は、よく頑張っているので、当日事故や病気などのトラブルがなければ、ほぼ大丈夫でしょう。」
塾の先生は、塾での長女の様子などを話していただき、特に両親が心配する必要はなさそうだということで、私達は安心しました。
―― これで終わりかな?
そう思った時、先生は少し気になることがあるかのように、私達に尋ねました。
「最後に確認ですが、受験をするのは本当にこのB校だけでいいんですよね?」
「そうですね。他の学校も考えはしたんですが、共学がいいというし、お兄ちゃんと一緒の学校がいいというので……まあ、B校に落ちたら公立の学校でいいかと思っています。
私達がそう答えると、先生はもう一度尋ねました。
「慣らし受験はしなくて良いですか?」
慣らし受験?
「えっと、慣らし受験ってなんですか?」
受験生の親なら、当然知っていなければならない言葉だったのでしょう。先生は、少し戸惑いながら、説明してくれました。
慣らし受験とは
慣らし受験とは、本命の学校を受験する前に、他の学校を受験して会場の雰囲気に慣れておく、という、受験のリハーサルのようなもの。
遠方にある私立の進学校などで、1月初めに受験日を設けている学校があり、多くの生徒はそれらの学校を『慣らし受験』する。
そのような学校は、校舎とは別に、東京や大阪などに受験会場を設けており、わざわざ遠出して受験しなくても良いようになっている。
慣らし受験のメリット
- 本番の受験前に受験を経験しておくことで、本番中の緊張がほぐれる。
- 受かると心理的に弾みがつく。
慣らし受験のデメリット
- 受験料がかかる。
- 落ちた場合、生徒によっては練習と割り切れず、自信を失うこともある。
- 本番の受験前に、慣らし受験の会場でコロナなどの感染症を貰ってしまうことがある。
慣らし受験、する?しない?
―― 学校まで行かなくても東京や大阪で受けられるとか、学校側も「慣らし受験」だと割り切って提供してくれてる感じだな。私立校の良いビジネスになってるんだろうなー。
私は、日本の受験ビジネスについて、いろいろ考えてしまいました。
「まあ、本番に備えて受験しておいてもいいかもね。」
私がそう言うと、夫の返事は意外にも「やめた方がいいと思う。」でした。
「練習っていったって、これらの学校、結構難しい学校だよ。対策も立てずに簡単に受かるようなところでもないよ。受かったらいいけど、落ちたら、かなりショックを受けるでしょ。彼女は、結構気にしすぎな性格だから。」
「なる……。」
受験に関しては、夫に主導権があります。
私達は、「慣らし受験はしません。」と先生に伝えました。
ところが……
それから数日経ち、ある日の夕食時、「ただいまー。」と長女が塾から帰ってきました。
「塾の先生から『お母さんたちが慣らし受験しません』って言ったって聞いたんだけど……私、慣らし受験したかったんだけど。」
「えっ、そうなの?」
―― そういえば、彼女に聞かずに決めちゃってたわ。
私は、長女に謝り、「長女ちゃんが受けたいなら、受けていいよ。今なら申込みに間に合うでしょ。」と言いました。
「ありがとう!」
「え、慣らし受験するの?そんな、受かっても行かないんだし、落ちたらショック受けるよ。もっとよく考えようよ。」
夫はかなり粘って長女への説得を試みましたが、彼女の意思は固く、結局、本命のB校の他に、慣らし受験用の学校も1校受験することになりました。
この選択が吉と出るか凶と出るかはわかりませんが……まあ、彼女が精一杯やっているのであれば、どちらに転んでも大丈夫……なような気がします。